ともすればヴァーチャルな世界ですべての情報がやり取りされ、文字と視覚のふたつに伝達と表現の枠が狭められていっているこの時代に、ふたたび身体性と想像力を取り戻す作業の一環として、芸術の意義が見直されています。芸術は非常に身体的な表現形態として、社会にメッセージを伝えるツールであり、さまざまな人々につながる手段であることを何よりも芸術家自身が昨今明確に意識しているからです。同時に社会もその考えに共鳴しつつ、積極的に若い感性を育てようとしています。
一方教育の世界に目を向けてみると、コミュニケーション手段の変化により、若者たちが、より個人空間へと引きこもりつつあります。一見彼らはつながっているようでいて、その存在が分断されていることは、明らかです。IT以外の媒体を使ってふたたび人をつなげ、社会へと目を向けてもらう方法として、ここでも芸術の力が見直されています。堅く閉じこもった心を開いて、自分を知り、他人とつながるための芸術表現を使ったワークショップが学校や地域で盛んに行われるようになりました。教育の現場や社会とアーティストたちが積極的に関係しあう時代が来たのです。これまで制作活動と公開性は必ずしも手を携えてきたわけではありません。皮肉なことに、創造の世界はともすれば現在の若者たちのように個人の中に深く引きこもっていく中で生み出されるものであり、社会との断絶の中で純粋な芸術表現が生み出されるという固定観念があったことも事実です。
しかしアトリエという個室を芸術家たちが広く地域社会や教育の中に求め、同時に地域社会も積極的に創作の場をアーティストたちに提供しながら、想像のインスピレーションと地域の活性化を同時に促す試みがさまざまな場所で花開いているのです。このコラボレーションは芸術にまったく新たな素材を提供する役割を果たすと同時に、芸術家たちが自らの活動を積極的に社会連携や地域貢献に反映させていく道を用意しているのだといえるでしょう。一方でCSRが叫ばれる中、芸術の社会への意義も同時に問われているのです。
しかしながらこのような社会と連携する芸術観は何も今に始まったことではありません。デザイン・工芸・建築を中心に近代の芸術と文化のあり方を社会の活性化の中に見出そうとした「アーツ・アンド・クラフツ運動」は、その端緒となりました。この動きの影響下でロンドンのイースト・エンドでのセツルメント運動を担ったトインビー・ホールは「手工芸ギルド」を創設し、その後シカゴに開設したセツルメント、ハル・ハウスはアメリカにおける「アーツ・アンド・クラフツ運動」の拠点のひとつとなりました。このふたつの運動が世界にひろがった19世紀末から20世紀初頭にかけての数十年間に、芸術、文化、仕事、生活、環境の理想的な関係を築き上げようとしたさまざまな試みが展開されたのです。
同時にこれらの運動の非常に大切な要素が「教育」でした。1884年にトインビー・ホールを開館したサミュエル・バーネットがホールの設立前にすでに導入していたのが、地元の芸術教育でした。人々の想像力を掻き立て、感動を引き起こすだけでなく、創造の喜びを身体で教えることができるのが芸術であることを、イースト・エンドでの試みは証明しようとしました。そのひとつが先に述べた「手工芸ギルド」でもあったのです。この教育と芸術と感性の鍛錬の関係は今でもイースト・エンドのモダン・アートをしっかりと支え、数多くのアーティストを世に送り出しています。
この過去と現在の動きを再びみいだす場が2009年度の「芸術と福祉」国際学会です。芸術と社会の新たな関係性を見直すために今回はあえて「芸術」と「福祉」を分けることなく、同じ土壌で語り合う形式を取りたいと思います。芸術活動のコミュニティでのアウトリーチは、新たな芸術のインスピレーションになりうるのか。そして芸術は社会や福祉の中にどのような位置を見出し、根付いていくのか。今回これらの問題を考える舞台は横浜市です。今年で開港150年を迎える横浜は、港を中心としてさまざまな異文化が出会い、さまざまな人々を受け入れてきた場所でした。そのような環境の中で市は国内外から数多くのアーティストを招き、生み育て、その力を借りて新たに町を活性化しています。アーティストとの連携が、福祉や異文化交流などの街づくりに生かされているのです。この横浜を舞台に、さまざまな例と歴史的な意義を互いに紹介しながら、同時にその現場を見て、感じてその場で関わっている人たちと話し合うことで、「学会」という場を社会の中へとさらに広げてみたいと思います。
| 8:30 | 受付開始 |
|---|---|
| 9:30 | オープニング 開会挨拶 慶應義塾大学学務担当理事 長谷山 彰 |
| 9:45–11:00 | 基調シンポジウム「芸術と社会」 大阪大学 藤田治彦 青山学院大学 黒石いずみ 慶應義塾大学 横山千晶 |
| 11:00–12:00 | 参加者の紹介とディスカッション |
| 12:00–13:30 | 昼食およびこれからの予定説明 |
| 13:30–14:05 | 発表[1] (25分+10分ディスカッション) Henri C.A. BRAAKENBURG (Foundation for Educational Projects) “The Maatschappij tot Nut van 't Algemeen -- the First Public Welfare Society in The Netherlands--” |
| 14:05–14:40 | 発表[2] 小野修三(慶應義塾大学) 「E・ハワードの田園都市と日本人」 |
| 14:40–15:15 | 発表[3] Hiroko Masui (升井裕子), Japan Women’s University “The Campaign for Drawing: ‘To See Clearly is Poetry, Prophecy and Religion’” |
| 15:15–15:35 | コーヒーブレイク |
| 15:35–16:10 | 発表[4] 金 相美(大阪大学) 「視覚言語と現代社会--モホリ=ナギ『ヴィジョン・イン・モーション』とその意義--」 |
| 16:10–16:45 | 発表[5] Yoshie Itani (井谷善恵), Tama University “Beauty Pictures on Old Noritake: Kutani Style Beauty Pictures & Geisha Images” |
| 17:30 | ウェルカム・パーティー ファカルティ・ラウンジ |
| 9時 | 慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎に集合 ヨコハマ・クリエイティブシティ・センターへ移動 |
|---|---|
| 10:00–11:00 | 合同会社コトラボ代表 岡部友彦氏の講演とディスカッション |
| 11:00–11:15 | コーヒーブレイク |
| 11:15–11:50 | 発表[6] 板谷慎(青山学院大学大学院) 「地域開発デザインに於ける芸術と社会の関係:その問題と可能性への提案」 |
| 11:50–12:25 | 発表[7] 松本孝一(青山学院大学大学院) 「食器と民家を通した芸術の社会性への問いと試み」 |
| 12:30–13:30 | YCCにて昼食 |
| 14:00 | 寿フィールド・ワーク フィールド・ワーク後 黒沢美香氏 武藤浩史氏 ダンス・ワークショップ at YCC |
| 17:30 | 中ムラサトコさんコンサート |
| 9:00–9:35 | 発表[8] 劉 賢国(筑波技術大学) 「国際聴覚障害児の言語学習に供する電子図書の開発に関する研究 --日本聴覚障害児の電子図書の開発を中心として--」 |
|---|---|
| 9:35–10:10 | 発表[9] Kyoichi SHIMASAKI (島先京一), Seian University of Art and Design “Large Illustrated Screen Books -– A Design Project of Teaching Materials for Severe Intellectually Disabled Children by Art Students and Design Researcher –-” |
| 10:10–10:30 | コーヒーブレイク |
| 10:30–11:05 | 発表[10] 小泉元宏(東京芸術大学大学院) 「社会と関わりを持つ芸術」と地域社会との関係について ――『関係性の美学』概念とその批判への考察を中心として―― |
| 11:05–11:40 | 発表[11] Marina MEEUWISSE, Rotterdam University of Applied Sciences, School of Social Work “Art as a Valuable Instrument in Community Research” |
| 11:40–13:00 | 昼食 |
| 13:00– | ヨコハマ・フィールド・ワーク |
| 18:00 | 夕食 オープン・ディスカッション |